著者:中山安行
発行日:大正5年12月5日
発行元:成美堂書店
定価:60銭
(コラム)
著者はこの道二十年になる千葉県の竹林家で、農学者ではありません。徒手空拳、額に汗をかいて竹林経営を成功させたノウハウを東京大正博覧会(大正三年開催)で公開したところ、たいへん評判がよかったので、この本を書くに至ったと記しています。
まるごと一冊、竹林について書かれた本というのは珍しいかもしれません。しかし著者によれば、明治二十四年から四十三年までの二十年間で竹価は四倍(百束十七円から六十六円)にも高騰し、竹林経営は儲かるビジネスだと強調しています。一方、竹林業者の多くが単に竹を植えるだけで十分な手入れもせず、質の悪い竹を乱伐しては荒稼ぎをしていると憤ってもいます。この本によって上質な竹の育成法を公開するのはそのためだ、という著者の義憤と竹林への深い愛情が感じられます。
竹林というと私は崖崩れ防止や、寺院の庭園などを思い浮かべますが、一般家屋においては木造建築がまだ主流だったこの時代、竹も木材のひとつとして欠くことのできないものでした。また、ざるやかごなど竹を使った日用雑具や工芸品を考えれば、たしかにその需要の高さは想像できます。また竹の繊維からは糸や紙もつくることができ、筍は食用にもなります。
明治時代、エジソンが京都八幡の竹をフィラメントに使い、白熱電球を成功させたのは有名な話です。世界的な大発明を受けて京都産の竹が大量にアメリカへ輸出されました。
そういえば以前私が戦争体験を取材した時に、落下傘の骨組みを竹でつくって国に納めていた家族の方にお会いしました。プラスチックや新素材のなかった時代、竹は軍用にも使われていたわけです。
こうして考えてみると、この時代の竹林経営は知る人ぞ知る好況ビジネスだったのかもしれません。著者は後記にも口を酸っぱくして、「儲かるからといってくれぐれも利益に走らず、努力を怠らず、竹林愛護に努めること、それが竹林繁栄策の奥儀である」と結論づけています。
「竹林繁栄策」より