2015年、今年の漢字に「安」が選ばれましたね。
私はそろそろこの「安」という漢字は使えなくなるんじゃないかと考えています。
たとえば、職業では「看護婦」が看護師になり、「婦人警官」が女性警察官と呼び変えられるようになりました。男女雇用機会均等法の影響で、職業に「婦」を 付けるのはよろしくないという風潮になったからだと言われています。また、「婦」という字は女ヘンに「箒(ほうき)」と書くので、女は家で働くものだとい う漢字の成り立ちが女性蔑視だという考えもあるようです。同じように「嫁」も結婚=家に入るという構図になるので、やはり女性蔑視だという意見がありま す。余談ですが、以前は学校で、生徒の家族のことを「父兄」と言っていました。これも女性がいないのはよろしくないということで、現在では使われなくなり ました。
さて、冒頭の「安」。
もうお分かりだと思いますが、ウかんむりは「家」を表しています。家の下に「女」と書いて「安」。つまり、女性が家にいることが安らぎで安心であるという 意味になるのでしょう。そうすると、女性は家にいなくてはいけないのか、働いている女性の家には安らぎがないのか、といった反論が生まれてもおかしくあり ません。「婦」や「嫁」だけでなく、「安」も漢字の成り立ちは似たところがあるからです。
今の時代、「安」という漢字が差別的じゃないとは、もう言えないのです。十年後、違う言葉に置き換えられていてもおかしくはありません。実際に時代の流れとともに、人知れず使われなくなっていった漢字や表現は山ほどあるのですから。
こうした漢字の成り立ちには良くも悪くも当時の文化や価値観が含まれています。「けしからん」と言われるような表現の中にこそ、実は人間の生臭い本質が見え隠れします。
差別的だとして消えていく表現がある一方で、私たちは差別や排他の歴史を語り継ぐことを忘れてはいけません。歴史を忘れた時に、ふたたびそれらは繰り返されるかもしれないからです。きっと戦争も同じでしょうね。
今年の漢字はなかなか奥深いと思いました。