【ふだん記50周年】
私が現在取り組んでいる「自分史」ですが、いまから約40年ほど前にその言葉を生み、広めたのは歴史学者の色川大吉氏でした。しかし、「自分史」という言葉も、その概念も、ある日突然発想されたわけではありません。
色川氏が色濃く影響を受けたのは、八王子で「ふだん記」運動を広めていた橋本義夫氏の存在でした。「ふだん記」は文字通り、普段の出来事を思いのままに記しましょう、という民衆の活動です。
この橋本氏と「ふだん記」運動の影響を受け、後に自分史が着想されたわけです。色川氏は後に『ある昭和史』という著書の中で自分史の試みを唱える一方、橋本義夫氏と「ふだん記」運動を大きく取り上げました。この著書が当時のベストセラーになったことで、自分史という言葉が広まり、さらに「ふだん記」運動も全国的に注目されるようになりました。
その「ふだん記」に取り組む人が集まり、活動が始まったのが1967年11月で、今年で50周年を迎えました。
橋本義夫氏の思いを継ぎ、ふだん記の活動は50年間続いてきました。40年間続けてきたという男性は、入会した時はまだ30歳だったとしみじみ振り返りました。
日常の出来事を原稿に書き、掲載料を支払い、印刷物として仲間に配られる。感銘を受けた人は、感想を手紙に書いて本人に送る。この活動は、今ならブログやSNSで無料かつスピーディーにできてしまいます。デジタルに慣れてしまった私たちには、そんなことにわざわざ手間とお金をかけるのは、馬鹿馬鹿しく感じるかもしれません。
しかし、SNSでは得られない大切な「何か」が、ふだん記に取り組むメンバーの中には存在するようです。その意味において、ふだん記運動は、いま失われつつある大切なものを現在につなぎとめる役割も担っているのかもしれません。メンバーの高齢化が進む中、多くの課題はあると思いますが、いつまでも続いてほしい活動です。
(私が手にしている冊子は「ふだん記」創刊号と第2号。共に1968年刊行で、偶然にも私と同い年でした)