新編栽培各論教科書

著 者:佐藤寛次、木村良雄
発行日:明治45年3月1日
発行元:成美堂書店
定 価:27銭

(コラム)
序文を要約すれば、「本書は教授上の実験に加えるに最新の学説をもって教科用に充つる目的をもって編纂したものである。文章は努めて平易にして初学者に要領を授けるに適せしめんことに留意したり。また師範学校農業科の教科書とし、農業補習学校及び高等小学校教師の参考書として好適なものと信ず」とあります。
第一章では稲の栽培や種類についての解説があります。米の品種には「関取」「神力」「愛國」などがあり、「大阪市場では大粒の米が、東京市場では小粒のものが賞美される」と市場性についての言及がみられます。ちなみに最近の米の品種名をいくつかあげてみると、「あきたこまち」「ひとめぼれ」「ぴかまる」「ミルキークイーン」「ゆめぴりか」などなど。言葉の響きに時代の違いを感じさせられます。
別章では、大麦、小麦、大豆、小豆、稗などの穀類の紹介。また馬鈴薯や落花生のほか、茶や煙草、面白いところでは、大麻の栽培についても書かれています。
「大麻の繊維はつむいで麻布や麻縄としたり、種子は油糧または小鳥の餌、あるいは香辛料とするなど効用は極めて多い」などと紹介しています。日本で大麻が取り締まりの対象になったのは戦後のことですから、この当時は教科書で教えていても問題はなかったのでしょう。
一方、煙草の項目では、「嗜好料類の主たるものにして、鬱を散じ、労を慰するの効あれど、未成年者には甚だ有害なり」と教育上好感が持てる記述が見られます。私の知る限り、戦後の日本政府は長い間、喫煙と健康(特に肺がん)についての因果関係を明確にしてこなかった経緯があります。なぜなら国民の健康を代償にして税収を得てきたことを政府が認めることになるからです。従って明治時代の教科書で、すでに喫煙が有害であると明言していたことには驚きを覚えました。

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